ISSUE 05 修繕計画の予習帳
そもそも、ダイキボシュウゼンってなに?
理事・修繕委員の方必見!
                                        大規模修繕の必要性やおおまかな流れがこの1冊に。

修繕計画とはなにか?
修繕計画策定の目的
修繕計画の目的は、直近で実施すべき修繕工事の内容・範囲・品質水準と、それらに投じる予算を決定することです。しかしながら、これは単に「いま問題になっている劣化や不具合を直す計画を立てる」ということではありません。今後発生するであろう問題や、この先30年程度の修繕積立金の状況を見通しながら、いま手をつけるべきことを策定していきます。
                                    マンションの安全性・居住性・資産価値を維持していくために、建物の現状をしっかりと把握し、将来を見据えた計画を立てていく必要があります。
修繕計画の構成要素
修繕計画は、一般に次の4点の文書で構成されています。
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                                        ● 劣化診断報告書建物調査・診断の結果を報告する文書で、目視点検や各種試験によって洗い出したマンション各所の劣化の状況と、それらに対するコンサルタント会社の所見がまとめられています。修繕工事の内容・範囲・品質・予算を検討していく上での基礎となる資料です。 
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                                        ● 工事仕様書大規模修繕で実施する各工事について、使用する建材や施工の方法、検査仕様などが詳細に定められています。施工会社へ向けた、いわば「工事の教科書」であり、工事の概算費用を算定する基礎資料にもなります。 
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                                        ● 予算書工事仕様書をもとに、どんな建築材料がいくつ必要か、工事にどのくらいの人手が必要かを検討し、それぞれ必要となる金額の見込をまとめた資料です。予算の検討や、施工会社選定時の各社見積りの妥当性を判断する材料となります。 
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                                        ● 工事計画図工事仕様書で定められた各工事が、マンション内のどの部分で行われるかを図として表した資料です。 
修繕計画は誰が作る?
これら4つの文書は専門性が高い内容ですので、作成はコンサルタント会社が行い、「計画案」として理事会・修繕委員会へ提示します。その後、コンサルタント会社から「計画案」の説明を受けた上で、判断を要する内容の協議・検討や、居住者ならではの目線から細かな要望を盛り込んでいくのは、理事会と修繕委員会の仕事になります。
1.劣化診断報告書 〜 修繕計画の成果物サンプル解説 〜
                                        ※ここでは劣化診断報告書の一部を抜粋してサンプルとして掲載しています。
                                    ◆マンション各所の劣化状況の報告
各部位劣化写真
屋上

- 劣化基準
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                                                    (社)建築・設備維持保全推進協会(BELCA)の劣化区分により4段階にて劣化状況の分類を行う。 
- 劣化ランク
- 
                                                    1「異常無し」 現状は特に異常は見られず、次回の診断(一般5年毎)まで特に大きな問題は発生しないものと思われる。 
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                                                    2「経過観察」 多少あるいは部分的に異常が見られるが、すぐに補修する必要は無いものと思われる。 
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                                                    3「補修対策の必要有り」 異常がある、あるいは劣化が進行して補修等の必要がある。 
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                                                    4「要即時補修」 落下や機能停止の危険があり、至急の対策が必要である。 
◆各種試験の内容説明および結果報告
機器調査試験
コンクリート中性化試験:結果
- 判定:劣化状況を中性化深度で判定する。
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                                                劣化判定は、旧建設大臣官房技術調査室監修「鉄筋コンクリート造建築物の耐久性向上技術」の劣化区分を参考とした。 
 その劣化度の区分は、被り厚と基準値に基づいて行っている。- ○:現状においてまったく問題がないため補修の必要はなく、3次診断の必要もない。
- △:現状においてほとんど問題がないため補修の必要はないが、必要に応じて3次診断を行う。
- ×:予防保全を含めた補修対策が必要であり、補修方法を決定するための3次診断を実施する事が望ましい。
 
- 基準値:中性化深度は経年数に比例して増加するが、岸谷氏による理論値を採用する。
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                                                コンクリート下地中性化深度の測定式は以下の通り。 
 t=7.2X²(t:竣工年数、X:中性化の深度〔㎝〕)
 この数式に当物件の竣工後経過年数(11年)を当てはめて計算しますとX=約12.4㎜となります。
 上記数値はコンクリート打ち放し(無塗装)の場合ですので、仕上塗材により下記の数値を乗じます。
 (仕上げ材による係数リシン:0.8吹付タイル:0.4タイル・モルタル塗:0.1)
 吹付タイル約12.4㎜×0.4 = 4.9 mm
 従って、吹付タイル【 4.9mm 】が、本物件における理論上の中性化深度数値となります。
| コンクリート中性化測定試験 | ||||
|---|---|---|---|---|
| No. | 測定箇所 | 仕上げ材 | 測定値 | 判定 | 
| 基準値 | 吹付タイル | 4.9mm | ||
| 平均値 | 3.75mm | |||
| 1 | 外階段手摺壁15F西面 | 吹付タイル | 2.0mm | 〇 | 
| 2 | 外階段芯壁13-14F北面 | 吹付タイル | 4.5mm | 〇 | 
| 3 | 外階段手摺壁8-9F東面 | 吹付タイル | 2.5mm | 〇 | 
| 4 | 外階段手摺壁3-4F南面 | 吹付タイル | 6.0mm | △ | 
コンクリート中性化測定試験
- No.
- 測定箇所
- 仕上げ材
- 測定値
- 判定
- 基準値
- 吹付タイル
- 4.9mm
- 平均値
- 3.75mm
- 1
- 外階段手摺壁15F西面
- 吹付タイル
- 2.0mm
- 〇
- 2
- 外階段芯壁13-14F北面
- 吹付タイル
- 4.5mm
- 〇
- 3
- 外階段手摺壁8-9F東面
- 吹付タイル
- 2.5mm
- 〇
- 4
- 外階段手摺壁3-4F南面
- 吹付タイル
- 6.0mm
- △
◆建物調査・診断の総合所見
総合判定
総括所見
- 総括所見
- 
                                                貴マンションには外観目視の限りでは、建物の不同沈下や柱や梁などの主要な構造部の変形(歪み)など、構造強度上の懸念を抱かせる重大な障害は見られませんでした。 
 しかし、各所を丹念に観察すると、普段あまり目にしない箇所を中心として、後述するように主に建築仕上げ分野に、経年劣化を主な原因とする不具合が所々生じています。
 屋上防水層においては、防水材のふくれやひび割れなどが確認されました。また、屋上防水層の保証年数がまもなく切れること考慮すると、改修に向けての準備をしていくことが必要と思われます。
 建物の不具合は放置して自然と治るものではなく、今後ますます量が増え程度も深刻となります。築後年数を考慮すると、第1回目の大規模修繕工事の綿密な計画を立てていくことが必要です。
- 修繕工事実施サイクル概念図
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◆各部位ごとの劣化状況判定
総合判定
総合判定 ~所見・ポイント~
大規模修繕工事に向けての判定基準
| 段階 | 判定内容 | 
|---|---|
| ◎ | 緊急に大規模修繕工事を行う必要がある | 
| ○ | 大規模修繕工事を行う時期に来ている | 
| △ | 足場がないと大規模修繕工事ができない、もしくは次の大規模修繕工事まで待てない | 
| - | 当面、大規模修繕工事を行う必要がない | 
| 項目 | 判定内容 | 判定 | 
|---|---|---|
| 廊下・階段について | 廊下・階段床 
 | ○ | 
| 塗装仕上部について | 外壁・天井 
 | ○ | 
| タイル仕上部について | 外壁タイル 
 | ○ | 
| 防水層について | 屋上・ルーフバルコニー 
 以上のことから防水することが望まれます。 | ○ | 
| 鉄部塗装仕上部について | 鉄部塗装仕上げ部 
 | ○ | 
| シーリング材について | シーリング材 
 | ○ | 
- 段階
- 判定内容
- ◎
- 緊急に大規模修繕工事を行う必要がある
- ○
- 大規模修繕工事を行う時期に来ている
- △
- 足場がないと大規模修繕工事ができない、もしくは次の大規模修繕工事まで待てない
- -
- 当面、大規模修繕工事を行う必要がない
- 項目
- 判定内容
- 判定
- 廊下・階段について
- 廊下・階段床
                                                    
                                                    廊下の床シートは剥がれが確認され、防水機能が期待できない状態です。 
 階段の床は表層の劣化・シート破断が確認されました。
 足場が無くても施工できる場所ですが、意匠性・防滑性を考えると防水施工することが望まれます。
- 
                                                    ○ 
- 塗装仕上部について 外壁・天井
-  ひび割れ・エフロレッセンス現象等、各所に経年劣化による不具合が確認されます。
 放置しておくと、建物寿命に影響がでる為、足場を架設した際に入念な補修・塗装が望まれます。
- 
                                                    ○ 
- タイル仕上部について 外壁タイル
-  タイルの浮き・ひび割れが確認されており漏水・タイルの剥落が心配されます。
 足場を架設した際に、入念な補修が望まれます。
- 
                                                    ○ 
- 防水層について 屋上・ルーフバルコニー
-  屋上については、紫外線による劣化が見られます。
 屋上・ルーフバルコニーともに下階が居室であり、漏水すると、直ぐに影響がでます。以上のことから防水することが望まれます。 
- 
                                                    ○ 
- 鉄部塗装仕上部について 鉄部塗装仕上げ部
-  消火栓ボックス周辺及び塔屋扉等に劣化(発錆)が確認されます。
 雨水の影響を受けない下階は比較的良好な状態です。
- 
                                                    ○ 
- シーリング材について シーリング材
-  物性試験結果、既存シーリング材は劣化傾向にあることが確認された。
 足場が無いと施工できない場所が多い為、大規模修繕工事の際は全面的に施工することが望まれます。
- 
                                                    ○ 
2.工事仕様書 〜 修繕計画の成果物サンプル解説 〜

- 工事仕様書の構成
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                                            工事仕様書は大きく分けて共通事項、特記仕様書の2つのパートにわかれており、それぞれ以下のような事を定めています。 (1) 共通事項: 
 工事対象物件の概要、工事の準備・安全対策・進め方、完成の定義、保証のあり方、検査仕様、提出書類など、工事全体に関わる仕様や決め事が定めてあるパート。(2) 特記仕様書: 
 足場・下地補修・塗装などの各工事について、それぞれ建築材料や工法が定めてあるパート。工事仕様書は全体で数十ページに渡るボリュームの大きい文書なので、ここでは特記仕様書の一部を抜粋してサンプルとして掲載しています。
3.予算書 〜 修繕計画の成果物サンプル解説 〜

冒頭部サマリー内の「共通仮設工事」の項目を、さらに詳細に表示したもの。これと同じく、サマリーの各項目に対して内訳が用意されており、建築材料や作業費の詳細が明記されています。
                                        ※単価、金額は仮のものです。
4.工事計画図 〜 修繕計画の成果物サンプル解説 〜
工事設計図(共通仮設工事・直接仮設工事)
共通仮設工事・直接仮設工事
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                                            【共通仮設工事(1階平面図)】  
 仮設候補地置物 
 ①現場事務所
 ②作業員詰所
 ③資材倉庫
 ④仮設トイレ・洗い場(共用部より水道分岐)
 ⑤産業廃棄物置場
 ● 仮設電源(共用部電盤より分岐)駐車場 
 ● 敷地内平置き駐車車両…外部駐車場
 ● 工事用車両…外部駐車場各所養生 
 ● エントランス床
 ● 手摺
 ● エレベーター籠内等汚れ防止養生 他
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                                            【直接仮設工事(配置図)】  
 直接仮設工事 
 ● 建物外部仮設足場・枠組み(赤線二重線)
 ● 建物外部仮設足場・単菅ブラケット(赤線点線)
 ● 勾配屋根足場(青色点線)
 ● 昇降階段設置(3カ所程度設置)
 ● 足場外部メッシュシート養生
 ● 朝顔養生(鋼製落下防止柵)
 ● 各出入口上部落下防止養生 コンパネ庇設置
 ● エントランス廻り侵入防止金網養生
 ● 荷揚設備 ウインチ等設置
 ● 足場資材運搬 トラック運搬 他
工事計画図
工事計画図 【下地・タイル補修工事、シーリング工事、外壁塗装工事、鉄部塗装工事】

修繕計画策定の流れ
修繕計画の策定は、コンサルタント会社が主導する形で進行していきます。
                                        まずは現場調査や図面確認、居住者アンケートを行い、その結果を踏まえて建物調査・診断を実施。調査・診断の分析結果(劣化診断報告書)からコンサルタント会社の案として工事仕様書・予算書・工事計画図が作成されます。これを修繕委員会・理事会・コンサルタント会社の三者で協議調整して、最終的な修繕計画が策定される形です。
                                        ただし、マンション居住者向けの周知広報、居住者説明会の準備運営、総会への対応といった活動については、修繕委員会と理事会が中心になって進めていく必要があります。
                                        修繕計画策定までの大まかな流れは下表のとおりです。
                                        なお、各ステップの詳細については、chapter2以降で解説していきます。












