よくわかるマンション大規模修繕SUN

ISSUE 05 修繕計画の予習帳

chaptert 3

修繕計画策定のポイント

修繕計画策定の流れ


建物調査・診断の後は、コンサルタント会社から提示される修繕計画案を協議・調整の上で確定し、居住者への説明、総会での工事予算承認と進んでいきます。各ステップ毎の内容は次の通りです。

  1. 1修繕計画案の作成

    劣化診断報告書の内容をもとに、コンサルタント会社側で工事仕様書・予算書・工事計画図の案を作成します。作成に要する期間は2~3週間程度になります。

  2. 2修繕計画案の説明工事仕様調整

    工事仕様書・予算書・工事計画図の案を、コンサルタント会社から理事会・修繕委員会へ説明してもらいます。通常、この段階では、修繕の範囲と品質を優先した案、工事費用の低減を優先した案、場合によりそれらの中間案の計2~3案が提示され、その中から進行案を決めて微調整していきます。
    劣化状況の判断や、各案における工事内容の妥当性については、専門家であるコンサルタント会社を信頼して大丈夫です。ただ、今回の修繕の予算上限をいくらとするか、その中でどこまでの範囲を修繕していくかは、修繕積立金の状況を見ながら理事会・修繕委員会で落としどころを探っていかなければなりません。もちろん、コンサルタント会社もアドバイスしてくれますが、最終的に修繕計画案を決定をするのは自分たちだと考えておいてください。

  3. 3工事計画説明会(居住者説明会)

    理事会・修繕委員会から、居住者に修繕計画案の内容を説明します。詳細はChapter4をご参照ください。

  4. 4工事予算の総会承認

    修繕計画案を総会で決議にかけ、承認を得て工事内容および予算を確定します。こちらも詳細はChapter4をご参照ください。

工事仕様調整の際の考え方

コンサルタント会社から提示された複数の修繕計画案から1つの案を選んで調整していく際は、修繕積立金の状況と、あるべき修繕の範囲・品質の双方を見つつ検討していく必要があります。 十分な修繕積立金があるにも関わらず、過度にコストを重視して工事費用の低減を優先した案を選択しても、次回以降の大規模修繕の範囲や度合が増えてトータルでコスト高になってしまっては意味がありません。一方、修繕積立金の状況を勘案せずに修繕の範囲と品質を優先した案を選択した結果、非常時の備えとして残すべき積立金まで取り崩してしまうのも問題です。 まず現実的な予算上限を協議・決定し、その上で案の選択と調整を進めていきましょう。各段階でのポイントは次の通りです。

予算上限の考え方

大規模修繕の費用は、基本的に修繕積立金によって賄われます。しかし、当然ながら現在の積立金額のすべてを今回の工事に投じてよいわけではありません。残しておかなければならない予算として、次回の大規模修繕に必要となる費用を積立てる土台としての積立金残高と、水道・ガス・電気・電話といったライフラインの突発的な不具合や被災に対する補修費用の2つがあげられます。前者は長期修繕計画から算定できますが、後者はマンションの規模・構造・設備などによって異なりますので、コンサルタント会社に相談してみるとよいでしょう。
現在の修繕積立金から、この2つの額面を引いた残りが、今回の大規模修繕の基本的な予算上限となります。

修繕の費用感は次回も同じ?

2回目・3回目の大規模修繕は、大型設備や建具の交換が必要となることが多く、初回よりも費用が嵩みがちです。初回で積立金がギリギリだった場合は要注意です。

修繕の範囲・品質の考え方

限られた予算の中で修繕の範囲・品質を調整していくためには、各案の各工事がなぜその範囲・品質となっているのか、それは大規模修繕の目的である安全性・居住性・資産価値の維持とどう関わっているのかを把握する必要があります。通常、これらはコンサルタント会社が修繕計画案の説明を行う際にあわせて解説してくれます。しっかりと聞き、不明点や曖昧な部分があれば遠慮なく質問しましょう。
各工事の位置付けと効果が把握できれば、優先順位をつけて予算の枠内に収める工事を選択していくのはさほど難しくはないかと思います。なお、「どうしてもやっておきたい工事が予算の枠内に収まらない」という場合は、工事の材料や工法を変更することで対応できるケースもありますので、コンサルタント会社に相談してみてください。

改修・新設工事を盛込む際の留意点

汚れや傷みを直す「修繕」に対し、現状に手を加えてよりよくするのが「改修」、新たな構造や設備を付加するのが「新設」です。 よくある改修の例としては、バリアフリー化や地下に掘った機械式駐車場の埋戻し、敷地内公園の遊具の撤去、共用部分照明LED化など。太陽光発電システムや防犯カメラ、宅配ボックスの設置などは新設に当たります。
改修・新設とも、住まいの利便性を向上させる取り組みということで、夢や希望が膨らみがちな部分ですが、予算の制約と優先度の高い修繕への対応を考え合わせると、通常はさほど大きな費用を投じられるものでもありません。
ただ、機械式駐車場の埋戻しや共用部分照明LED化など、改修によって従来の維持費の削減が期待できるケースもありますので、コンサルタントも交えて中長期的なメリット・デメリットや費用対効果をよく話し合いましょう。計画上は高い対費用効果を生み出すものの、実施してみると逆に負債となりがちな改修・新設もあり、コンサルタントはそうした事例についても知見を提供してくれるはずです。 なお、改修・新設の案出や、最終的にどの案を採用するかは、居住者アンケートに委ねるのが一般的です。居住者の積立金で、居住者全員の利益のために行う取り組みですので、案出と選定がオープンで公正な手続きで進行し、改修や新設の利益・利便が特定の居住者に偏らないよう進めていきましょう。

chaptert 4

マンション内での情報開示合意形成

修繕計画の策定にも総会決議と承認が必要です。計画内容や策定の経緯・理由の説明が不十分なまま総会決議を行うと、「妥当性」ではなく「進め方」に不安や不満を抱く人が発生し、思わぬ結果になることがあります。2段階で説明の場を設け、マンション内の合意を形成していきましょう。進め方としては次の通りです。

劣化診断報告・説明会 (居住者説明会)

理事会主催の居住者説明会を開き、劣化診断報告書の内容を説明します。同文書は分量が多いため、要約版の資料を用意します。資料作成・説明ともコンサルタントが対応します。
この説明会は「結果報告」で、あまり当日に意見や議論が発生する内容ではありません。次の工事計画説明会の前段として、現状と課題を理解してもらうのが目的です。居住者説明会の準備については、本誌4号で詳しくご紹介していますので、ご参照ください。

工事計画説明会 (居住者説明会)

修繕計画案の内容・検討経緯、予算、実施スケジュールを説明します。説明資料は工事計画図をもとに「どこでどんな工事をするか」が居住者にわかる内容として用意しましょう。資料作成・説明とも、コンサルタントが支援します。この段階では「複数案を検討し、最も費用対効果が高い案を選んだ」という経緯をしっかり説明し、質疑を尽くすことが大切です。

修繕計画案の総会決議・承認

2度の居住者説明会で修繕計画案に合意が得られる状況を形成して、総会決議に臨みます。工事計画説明の資料をもとに総会議案書を作成し、当日はその内容にそって議事を進行していく形です。居住者説明会で丁寧な説明と質疑対応をしてさえいれば、ここでトラブルが生じることはあまりありません。


事例に学ぶ
建物調査・診断~修繕計画策定までの実際の様子

  • 物件情報
    ● 所在地:埼玉県中央部
    ● 築年数:11年
    ● 階数/戸数:15階建/35戸
    ● 大規模修繕実施回数:初回
    ● 修繕委員会:4名
  • 要望と課題感
    ● すぐに修繕工事をするかは悩ましいが、東日本大震災で梁にひびが入ったところがあり心配
    ● 共用部分の照明をLEDライトにしたい
    ● 地下の機械式駐車場を埋め戻したい
      (その他、改修/新設の要望が複数あり)

建物調査・診断

  • コンサルタント画像

    最も重要なのは「修繕工事の費用対効果」

    大規模修繕において最も重要なのは「修繕工事の費用対効果」だと考えています。調査・診断の結果によっては「あと3年は工事しなくて大丈夫」とお伝えするケースもあるのですが、残念ながらこのマンションはそう申し上げられる状況ではありませんでした。
    7階と8階の2カ所の梁には大きなひび。さらに外壁の一面でタイルに浮きがあり、第三者に被害を与えかねない危険な状況でした。その他、各所の細かな劣化状況も含めた劣化診断報告書をまとめ、長期修繕計画のとおりに工事すべきとご提案しました。

  • Bさん

    質問にも、理解しやすい言葉で的確に答えてくれました。

    普段の暮らしのなかではマンションの劣化になかなか気付かないものですが、いただいた報告書は屋上の防水シートの浮きや、壁面の亀裂などの細かい部分まで写真を載せ、さらに劣化のランクが付いた非常にわかりやすい内容でした。修繕委員だけでなく、全世帯が理解して一つの方向に向かうことが大事ですので、報告書というツールによって共通認識を持てるようになったことがよかったですね。私たち素人の質問にも、理解しやすい言葉で的確に答えてくれました。

修繕計画の策定

  • コンサルタント画像

    予算を伺わず、まずは必要なことを盛り込みます。

    修繕計画案を策定する前は予算を伺いません。予算を伺ってしまうと、どうしても予算に合わせた計画案になってしまうので、まずは予算を考慮せず「いま必要なこと、いまやった方が長期的に見てメリットがあること」という観点で基本案を作成し、そこから「いま必要なこと」に絞った別案も作成します。
    今回のケースでもこのやり方で進行したのですが、「いま必要なこと」に絞った案でも予算が400万円ほど足りないことが発覚。そこから知恵を絞って、各部の工事に使う建材を再検討したり、初回訪問から気になっていた外壁の汚れを“総塗替え”ではなく“一部塗替えプラス洗浄”にしたりして、最終的には建物の性能を維持しつつコストが予算内に収まる案を仕上げることができました。これは工事の内容や工法、材料を知り尽くしていないとできない仕事だと自負しています。

  • Bさん

    最後には納得できる案がまとまりました。

    修繕積立金は余裕がなかったのですが、コンサルタントのお話しを伺って、まずは予算を考えず、調査・診断の結果をもとにした最善のプランを考えてもらうことに。いただいた案はやはり予算をオーバーしてしまったものの、当初案をベースに項目を絞り込んでいって、最後には納得できる案がまとまりました。悩んだのは機械式駐車場です。最近は駐車場に空きが出はじめており、撤去した方が長期的に見てコストを削減できる見通しでしたが、優先度と予算を考慮して今回は見送りにしています。
    悩んだ部分も含め、コンサルタントのアドバイスを参考にしながら、何を優先すべきかを一つずつしっかり吟味したからこそ、居住者の皆さんに自信を持って説明できるよい案をつくることができたのだと思います。実際、説明会や総会承認は大変スムーズに進めることができました。

SUNシリーズ一覧

  • ISSUE 01 大規模修繕を知る
  • ISSUE 02 修繕委員のABC
  • ISSUE 03 パートナー選びの基礎知識
  • ISSUE 04 コンサル導入の手引き
  • ISSUE 05 修繕計画の予習帳
  • ISSUE 06 施工会社の選び方