大規模修繕工事の流れ

STEP1 修繕の体制をつくる

STEP1 修繕の体制をつくる

まずは長期修繕計画を確認した上で、大規模修繕工事の実施に必要な体制を整えます。

長期修繕計画を確認

平成25年のマンション総合調査によると「長期修繕計画を作成している」と答えたマンションは89%。長期修繕計画がないマンションは少数派になっているようですが、資金計画や計画修繕の考え方からすると、長期修繕計画を活用できている管理組合はまだまだ少ないのが現状です。もしかしたら、入居してから一度も長期修繕計画を見たことがない、という方も多いのではないでしょうか?さっそく、以下の確認ポイントをもとにチェックしてみましょう。

・25〜30年の期間で検討されているか?

国土交通省の指標では、新築マンションは30年以上、既存マンションは25年以上で制定するものとなっています。ただし、設備の種類や建物の部位によっては新築から25年目以降に初めての改修や交換が必要となる箇所もあります。また、近年はマンションを終のすみかとして考えている居住者が増えているため、できるだけ長く、たとえば40~50年間までの計画に見 直すことが望ましいと考えられます。

・工事項目に漏れがないか?

外壁・鉄部塗装、屋上・廊下・バルコニー防水、シーリング工事のほか、電気設備や給排水設備、サッシ・窓・玄関扉の交換などの項目が含まれているか。また、建物診断や長期修繕計画の見直しが含まれているかも併せて確認します。

・定期的に見直しされているか?

長期修繕計画書はあくまで「計画」です。建物や設備が想定どおり進行するとは限りませんし、建築材料や工法の開発による修繕周期や単価、費用の変動、さらには増税などの社会的環境や生活様式の変化も考えられます。長期修繕計画は一度定めたら終わりではなく、定期的な見直しが必要なのです。国土交通省では、5年程度ごとに見直すことを指標としています。

・計画通りに工事が実施されているか?

たとえ長期修繕計画が適切なものであっても、計画通りに確実に工事が実施されていなければ意味がありません。総会で承認が取れずに工事が先送りになる例もよくあります。過去に実施された修繕工事の履歴を併せて確認しましょう。

・修繕積立金の金額は工事費用をまかなえるか?

長期修繕計画に記された必要工事内容から、月々の修繕積立金が割り出せます。修繕積立金がマイナスになる計画になっていないか、修繕積立金が上がる場合、いつ・いくら上がる計画になっているかを確認しましょう。

修繕委員会の立ち上げ

管理組合の理事は、たいていが1〜2年ごとに変わる輪番制をとっています。大規模修繕工事は、準備段階から竣工まで2年程度、規模の大きなマンションや団地の場合だと4年近くかかることもあり、1〜2年で交代してしまう理事が担当するのは非効率といえます。そもそも、理事の業務で忙しいなかに、大規模修繕という「事業」にも対応するのは困難ということもあり、大規模修繕工事をはじめとした計画修繕を専門で担当する「修繕委員会」を設置する組合が多くなってきています。

また、これから数十年にわたってマンションを維持していく上で、継続的に建物の状態をチェックし、一貫した方針のもとで計画修繕を実行していく必要があります。そういった長期的な目線から見ても、修繕委員会の設置はもはや必須といえます。

修繕委員会のおもな業務は、大規模修繕コンサルタントの選定から建物診断・調査の立会い、工事内容の提案、施工業者の選定、工事説明会の実施、工事中の打ち合わせや進捗管理など多岐にわたります。

大規模修繕コンサルタントを探す

大規模修繕工事のコンサルタントをおこなう会社の多くは、設計事務所です。そのため、長期修繕計画の策定や建物調査・診断、改修設計など、建物に関する技術的な部分に関しては信頼度が高いといえます。また、大規模修繕工事に関する知識やノウハウをもとに、工事の必要性や価格の妥当性などを客観的に判断することができます。ですが、選び方を間違えてしまうと、理想の大規模修繕とはかけ離れたものになってしまうことも・・。

というのも、設計事務所は新築の技術には優れていても、改修に長けている方は少数派。たとえ技術支援ができても、管理組合運営の理解に乏しく、合意形成のサポートや居住者への配慮に欠けることも。改修技術と管理組合サポートの両方に精通した、総合的なコンサル能力を持っているかどうかを確認する必要があります。

STEP2 建物の状態を知る

STEP2 建物の状態を知る

建物の状態を把握し、工事が必要な部位を特定します。

建物調査 / 診断の実施

コンサルタントが中心となり、建物の劣化について調査をおこないます。理事・修繕委員の方々には、いつ・どこを修繕する必要があるかが報告され、大規模修繕工事の内容や、予算作成の目安となります。

・防水の調査診断

建物内には、おもに屋上や各戸のバルコニーに防水処理が施されています。まずは工事履歴を確認したり、居住者アンケートを実施して、漏水の原因となる箇所を想定した上で入念に調査をおこないます。防水には、工法や使用する資材によって診断・調査方法や確認すべきポイントが異なります。また、排水口まわりや防水層の立ち上がり部分、突起物まわりも入念に調査します。

・タイル部の調査診断

タイル部の劣化は、美観を損ねるだけでなく、躯体そのものの劣化に直結します。また、最悪の場合、タイルが落下し、居住者や通行人にけがをさせてしまうことも考えられます。劣化の症状には浮きや剥離があり、タイル同士のつなぎ目などから雨水が入り込み、接着力が弱まったり、下にあるモルタル部分が傷んでしまいます。
まずは目視でひび割れや退色を確認した上で、タイル部を打診棒(テストハンマー)で叩き、その時の音で浮きや剥離を調査する「打診調査」をおこないます。その他、タイル部に赤外線をあてて劣化部分を調べる機器を用いたり、タイル引張り試験機によってタイルの付着力を調査する方法もあります。

・コンクリートの調査診断

コンクリート部分は、躯体そのものの強度や寿命にかかわる重要な部位で、どの箇所がどのくらいの度合いでひび割れを起こしているかを正確に把握する必要があります。ひび割れは、コンクリートの収縮や、内部にある鉄筋の錆が起因となった膨張、モルタルの剥離などが原因で起こります。

また、コンクリートの成分は、鉄筋の酸化を押しとどめるアルカリ性ですが、空気中の二酸化炭素や酸性雨などの影響で、経年とともにしだいに中性に傾いていきます。そのため、外壁の一部を取り出し、試薬反応を見て中性化深度を調べる「コンクリート中性化試験」をおこなうこともあります。

・鉄部塗装の調査診断

鉄部塗装の耐用年数は3〜5年と短く、修繕周期も短くなるため、こまめに調査診断をおこなう必要があります。目視や触診で表面の錆やはがれを確認するほか、塗装面の引張試験やクロスカット試験などをおこなう場合もあります。

・電気設備

照明器具や変電施設、配管などの電気設備は、外観は目視で確認できますが、性質そのものについては絶縁や接地の抵抗測定が必要となります。また、近年では共用部にかかる電気コストをカットする目的で、LED照明に切り替える管理組合も増えています。

・駐車施設・外構など

屋外駐車場や植栽などは日常の点検や管理を通じて状況を確認することができるため、不具合が発生した際に補修をしている管理組合がほとんどです。大規模修繕工事に組み込む場合、駐車スペースのライン引きや、機械式駐車場の鉄部塗装などをおこないます。

・給排水設備の調査診断

給水管や排水管などの給排水設備は、ライフラインとなる重要な設備です。給排水管の耐用年数は20〜30年ですが、取替工事費はかなり高額になります。配管の劣化は、管内部の状況を確認する必要があり、内視鏡検査や超音波検査、X線検査などさまざまな機器を用いておこないます。

居住者説明会の開催

他の居住者さまに劣化状況を正しく理解してもらうために、居住者向けの説明会を開催します。説明会当日は、技術的な説明が多くなるため、ほとんどをコンサルタントに委ねることになります。理事・修繕委員の方々は、当日にできるだけ多くの居住者さまが参加するように広報・呼びかけをおこないます。

STEP3 修繕方法を決める

STEP3 修繕方法を決める

どの部位にどのような手当てがどのくらい必要なのかを検討します。

コンサルタントが工事のタイミングや、工事範囲、工法や、使用部材の単価数量などを検討し、工事仕様書、予算書、計画図に反映します。理事・修繕委員の方々は、コンサルタントから上がってきた提案書類を確認し、内容や費用面を鑑みて打ち合わせを重ね調整していきます。

大規模修繕工事実施の総会承認

大規模修繕工事を実施するには、居住者さまからコスト、発注業者などの承認を得る必要があります。そのための場が総会または臨時総会です。
大規模修繕の実施計画が明確でなく、説得力に欠ける説明だと居住者さまからの納得を得られず、工事そのものが先送りになることもあります。それを避けるためにも居住者さまに分かりやすく説明し、承認を得ることが大切です。
総会決議に関するルールは、国土交通省が平成16年に改訂した「マンション標準管理規約」に記載されています。これによると、共用部分の変更をともなわない大規模修繕工事は過半数決議で承認できることになっています。以前は、共用部分の変更があるケースもないケースも「4分の3以上の多数による決議」が必要でしたが、改正によって後者の決議要件が「過半数」に緩和されました。
現在の管理規約が「4分の3以上の決議が必要」となっていても、「過半数決議」で大規模修繕を進めることに問題はありません。ただし、トラブルが生じないよう、あらかじめ管理規約を過半数決議に改正しておくことをおすすめします。

STEP4 施工業者を決める

STEP4 施工業者を決める

大規模修繕工事の成功を左右する施工業者を選びます。

施工会社の選定方式

どこの施工業者に工事を発注するかは、管理組合にとってとても重要な問題です。予算内で、安全かつしっかりした工事を実施してくれるところ・・。シンプルですが、それが施工業者を選ぶ際のポイントになります。施工業者を選ぶ方法は「特命随意方式」「見積合わせ方式」「競争入札方式」の3つがあります。

・特命随意方式

特定の施工会社を指定して契約する方式で、この場合は価格や品質面で厚い信頼がある施工会社であることが必須です。1社を指名することになりますので、手続きや契約などは非常にシンプルですが、当然、競争性がなくなります。

・見積合わせ方式

複数の施工会社から見積と施工計画書を提出してもらい、各社を比較しながら1社を選定する方式。書類審査などを経て、最終的に3〜5社程度に絞ってヒアリング(面談)を実施するのが一般的です。競争性が高く、価格や施工内容の透明性が確保できますが、比較検討するのに時間も手間もかかってしまいます。

・競争入札方式

入札の結果、最も低い工事費を提示した会社と契約する方式。新築物件に多く用いられますが、マンション大規模修繕工事ではほとんど用いられません。

施工会社選定の流れ

・見積参加会社を選定

理事や修繕委員が手分けをし、インターネットで候補となる依頼先を検索したり、管理会社やコンサルタントの手を借り、専門紙で公募をするのが一般的です。集まったら、まずは書類選考で見積合わせに参加する会社を5〜10社程度に絞り込みます。

・交付図書の準備

施工会社が数量や単価を割り出すための資料を配布する準備をおこないます。見積要綱書や項目書、工事仕様書、改修図などはコンサルタントが作成しますが、管理組合で管理している新築時の竣工図書や修繕履歴がわかる図書などは理事または修繕委員が手配します。

・現場説明

用意した交付図書を見積依頼会社に配布・説明をおこないます。また、コンサルタントが中心となって建物内をまわり施工対象箇所や劣化状況を確認します。

・質疑回答

現場説明時に配布した資料や現場状況などについて、施工会社から質問があった場合は、コンサルタントを通じて回答します。

・見積書や資料のチェック

見積内容や項目、数量、合計金額のほか、工事工程や工事体制について確認していきます。コンサルタントからのアドバイスを受けながら、ヒアリング対象となる施工会社を3〜5社程度に絞ります。必要があれば、ここで再見積もりを依頼する場合もあります。

・ヒアリング

会社基盤や組織体制、施工管理体制、現場体制などについて話を聞きます。提示された総工事費だけでなく、各社のやる気や熱意、説明の的確さなどで判断します。

・施工会社内定

各社のヒアリング終了後、立会人で意見交換をおこない、1社を内定します。その後、総会または臨時総会の決議を経て、業務委託契約の締結となります。

STEP5 工事監理、検査を行う

STEP5 工事監理、検査を行う

建築現場において、工事を設計図書と照合し、設計図書の通りに工事が実施されているかを確認します。

工事監理

工事監理とは、建築現場において、工事を設計図書と照合し、設計図書の通りに工事が実施されているかを確認することをいいます。建築士法では、建築士の独占業務と定義され、工事が設計図書の通りに実施されていない場合は、施工者に注意を与え、それに従わなかったり、工事監理が終了した場合は、建築主にそれを報告するなどの義務が定められています。

多くの場合、修繕基本計画を策定したコンサルタント会社が引き続き工事監理も担当します。また、工事は毎日さまざまな箇所でおこなわれるため、監理者(コンサルタント)がすべての施工箇所に立ち会うことはできません。そのため、施工会社が各工程を写真撮影し、検査の補足資料として提示することになります。

検査

検査は工事に使用する資材の検査や、工事の工程ごとにおこなう工程検査、工事全体の区切りごとにおこなう中間検査、すべての工事が完了したときにおこなう竣工検査などがあります。
発注者(管理組合)は、おもに中間検査や竣工検査に立ち会うことになります。

・検査の手順

施工担当職人自主検査 現場代理人自主検査 施工会社の社内検査 監理者検査 発注者検査

・検査のポイント

検査では表面の仕上がりはもちろん、大規模修繕工事のような既存の建物に施す工事の場合、仕上げ前の下地処理の確認が非常に重要です。
たとえば、塗装工事の場合、既存の塗装面の除去、下地補修、塗料の下塗り・中塗り・仕上げ塗りなどの工程ごとに検査をおこない、表面の仕上げに隠れてしまう各工程の作業品質も確認していきます。

STEP6 竣工・アフターメンテナンス

STEP6 竣工・アフターメンテナンス

仮設設備も取り払い、いよいよ工事は完了。管理組合としてもひと安心といったところですが、劣化はこの時点から進行していきますし、次回の大規模修繕工事に向けてのスタートが切られたともいえます。

資料の整理・保管

竣工した大規模修繕工事の関連資料(工事請負契約書、竣工届、保証書など)は次回の修繕工事に向けた重要な資料です。わかりやすく区分・整理して保管します。
また、書類だけでなく、それらを電子データとして保存しておくことをおすすめします。

品質保証・アフターメンテナンス

契約時に交わされた保証内容に基づき、定期点検や報告書提出などの対応、発見された不具合の対処方法を理事会、専門委員会で検討します。

長期修繕計画の見直し

大規模修繕工事により、仕上げや設備が新築時の仕様から変更になることがあるため、現状に合った長期修繕計画に見直す必要があります。
また、大規模修繕工事は回を重ねるごとに修繕項目が増えていき、費用がかさむ傾向にあります。適切な修繕費を把握するため、管理組合の限られた資金を有効活用するためにも、長期修繕計画の定期的な見直しは欠かせません。