よくわかるマンション大規模修繕SUN

ISSUE 02 修繕委員のABC

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修繕委員の仕事総解説

前期準備期間

前期準備期間 ロードマップ
ロードマップ

修繕委員会のやるべき仕事と難易度は?

修繕委員を引き受けるか否かを考える際に、「仕事があるからできない」という話をよく聞きます。しかし、やり方次第で十分務まるといえます。行うべきことを休みの日に集中させることは、決して不可能ではないからです。
一番重要なのは、自分自身の住まいの安全性と快適性、将来にわたる経済的価値を守る、という意識を持つことです。
修繕委員のやるべき仕事は以下の通りです。

A 修繕委員会の設置

修繕委員会を設置するには、その必要性を1人でも多くの組合員に理解してもらい、賛成を得なければなりません。また、状況に応じて委員会設置に関する管理規約の細則作成や総会の決議なども必要です。詳細は本号のP14~17にて説明します。

B 委員の募集、委員会の結成

委員の募集は、なかなか集まらないことも多く、大規模修繕を進める上で最初のハードルになりがちです。事前に適任と思える人が居ないかを検討し、必要に応じて声をかけておくと進行がスムーズになります。

C 管理規約、同細則、竣工図書、長期修繕計画、修繕履歴、修繕積立金の状況の確認

図書類や修繕積立金などのデータ収集とその確認をします。図書やデータは、管理会社や管理組合室の書棚、理事長宅などで保管しています。
竣工図書や長期修繕計画を十分理解するには専門家の意見を聞くことも必要。この時点で管理会社やコンサルタント会社への相談を視野に入れている組合も多いです。

D 実施方式の検討

大規模修繕工事の実施方式には、おもに次の3つがあります。

  • 管理会社委託方式
    既存の管理会社に建物の調査・診断から修繕設計、施工会社選定、工事監理、施工までを一括で委託する方式。
  • 設計監理方式
    一級建築士事務所などが建物の調査・診断、修繕設計、施工会社選定補助、工事監理を担い、施工は別会社が行う方式(最近の主流方式)。
  • 設計施工方式
    建物の調査・診断、修繕設計、工事監理、施工までを施工会社が担当する方式。

各方式については、本誌1号のP10でも紹介していますのであわせてご参照ください。

E コンサルタント会社の選定

選定から契約締結までの流れは以下のようになります。

  1. インターネットなどで候補を探す
  2. 実績、信頼感などを考慮して、委員会で候補を数社に絞る
  3. 数社と面談し、提案と見積りを依頼
  4. 提案、見積りをもとに選定

費用だけではなく建物の状況や居住者の特徴をしっかり把握してくれるか、管理組合の理解を得るために動いてくれるか、などを見極めましょう。※この部分の詳細は3号、4号で説明します。

F コンサルタント会社との契約締結

コンサルタント会社の費用は総会決議で予算を確定します。臨時総会は大規模なマンションになると、スケジュールの調整などが大変でなかなか開催できないものです。できる限り定期総会に合わせるように段取りをしましょう。
通常総会で予算を確定する場合、選定着手からコンサルティング契約の締結までに通常1年~1年半を要するため、取り組みを計画的に進めていく必要があります。※この部分の詳細は3号、4号で説明します。

F コンサルタント会社との契約締結

コンサルタント会社の費用は総会決議で予算を確定します。臨時総会は大規模なマンションになると、スケジュールの調整などが大変でなかなか開催できないものです。できる限り定期総会に合わせるように段取りをしましょう。
通常総会で予算を確定する場合、選定着手からコンサルティング契約の締結までに通常1年~1年半を要するため、取り組みを計画的に進めていく必要があります。※この部分の詳細は3号、4号で説明します。

G 定例会運営

進捗状況の共有や、その時々の課題や対処を話し合うために定例会を運営していきます。開催頻度に決まりはありませんが、月1回程度、工事前後や工事中は2週間に1回程度が一般的です。
定例会当日、仕事等で誰かがどうしても参加できないというケースが必ず出てくるものです。とはいえ、全員参加必須では取り組みが前進しないこともあるでしょう。そこで「一定数の委員が揃えば議事は進行」を前提に、議事録をしっかりまとめて参加できなかったメンバーにも確実に共有しましょう。次回以降の定例会参加に向けて準備してもらうことができるようにすることが大事です。

H 活動状況の広報活動

大規模修繕はマンション全体を巻き込み、多くの居住者の生活に影響を与えます。委員会のメンバーが決まった、コンサルタント会社の選定が固まった、といったように状況が次のステップに進んだときは、その度に広報紙や説明資料を作成して居住者へ状況を伝えましょう。「いつからどんな作業を行うのか」、「どんな影響があるか」など、具体的な活動状況とあわせて、大規模修繕を行う意義を伝え続けることが重要です。この積み重ねが、理解者、協力者を増やし、その後のスムーズな進行につながります。また、修繕委員会は、あくまで理事会の諮問機関という位置づけなので、発行物は理事会の名で発行することを忘れないようにしましょう。

後期準備期間

後期準備期間 ロードマップ
ロードマップ

A 建物調査・診断
調査・診断の居住者周知/在宅日調整/居住者アンケート調整・アンケート実施/調査・診断の手配/立ち会い・確認/対応

マンションの劣化状況を正確に把握するために、専門家に依頼して建物の調査・診断を行います。コンサルタント会社が入る場合は、契約内容に調査・診断の費用も含まれているのが一般的で、専門家の手配や調査・診断の立ち会い、診断結果の分析までを主導してくれます。
また、建物調査・診断の際は、居住者へのアンケートや、在宅が必要な日程などの広報と調整が必要となります。これらが漏れたり遅れるとクレームのもとになるので注意が必要です。広報は掲示板を活用するのはもちろん、エントランスやエレベーターなど、目につきやすい場所に分けて掲示しましょう。

劣化診断報告・説明会

建物調査・診断の結果を、説明会形式で居住者に伝えます。説明会用の資料作成、工事や技術的な内容の説明や質疑応答は、コンサルタント会社が対応してくれます。確かな知識と経験をもとに、専門的な内容を正確かつわかりやすく説明することができるのも、コンサルタント会社を入れるメリットのひとつです。

B 修繕計画策定
修繕計画の検討/策定

建物調査・診断の結果をもとに、劣化や課題に対してどのように対応するのか、そのために必要な工事の内容と範囲、工事手法・建築材料・担保すべき工事品質、それらに必要な費用といった点をコンサルタント会社側で修繕計画案としてとりまとめます。これを修繕委員会・理事会・コンサルタント会社の三者で協議調整して、最終的な修繕計画を策定していく形です。

工事計画説明会

修繕計画の内容を、説明会形式で居住者に伝えます。説明会では、居住者全員の協力を得るために、大規模修繕を行う目的をしっかり伝えることが重要です。
具体的な工事内容の説明は、通常コンサルタント会社に任せるのがベストです。

C 合意形成(工事予算の総会承認)

総会、または臨時総会で大規模修繕工事の予算承認を得ます。工事計画説明会などのシーンで事前に居住者へどれだけ大規模修繕の意義を伝えられたかで、進行のスムーズさに違いがでます。専門的な内容や、大規模修繕の予備知識がない一般の居住者の目線で見て理解し難い内容は、コンサルタント会社に説明を依頼し、計画の内容がきちんと伝わるようにしていくことが重要です。

D 施工会社選定

施工会社の選定にあたって、候補となる会社の募集方法はおもに「公募」となります。公募を行う媒体の選定や手続きについては、コンサルタント会社にアドバイスを受けつつ進めていく形が一般的です。候補となる施工会社が出揃った後は、面談や相見積を通して候補を絞り込んでいきます。
慣れていない人にとっては、なにを基準に選択すればいいのかわかりづらい面がありますが、この際もコンサルタント会社側から面談でのチェックポイントや業界内での評判といった参考情報が提供されるのが一般的です。コンサルタント会社との契約内容にもよりますが、「施工会社選定補助」の業務が契約内容に含まれているなら、大いに頼りにするとよいでしょう。

E 工事項目/費用/施工会社の総会承認

施工会社とその最終見積りが確定した後は、やはり総会で承認を得る必要があります。この段階では、居住者に「なぜこの工事を行うのか」「なぜこの金額になるのか」を理解してもらうことが大事です。金額については、相場に対して高すぎるのは論外ですが、反対に安すぎるのも施工品質に不安が残ります。技術的・専門的な立場でコンサルタント会社に適正価格を説明してもらいましょう。総会承認後は、施工会社と工事請負契約を締結します。この際、契約内容の漏れや懸念事項については、コンサルタント会社側でチェックしてくれますが、契約の当事者として理事会・修繕委員会側でも内容を把握・確認しておきましょう。

施工中・竣工後

施工中・竣工後 ロードマップ
ロードマップ
A 工事の実施
説明イメージ
説明イメージ
工事説明会

工事のスケジュールや詳細内容、工事に伴う生活への影響などについて説明会を開催します。
説明会の資料は施工会社が用意してくれます。説明会当日の1〜2週間前には資料を配布するなど、なるべく多くの居住者が説明会に参加するように働きかけていくことが重要です。その上で、参加できなかった居住者にはしっかり事後説明することが後々のトラブル防止につながります。

アンケート設問例
アンケート設問例
アンケート

バルコニーや窓など、専有部内にある共用部の劣化状況や、各戸での雨漏りの有無などについて、施工会社がアンケートを行います。
アンケートの配布と回収、集計、各戸の状況や要望などへの対処案の検討とも施工会社が主導してくれますが、要望と対処案は修繕委員側でもしっかりと内容を把握しておきましょう。

工事監理(工事立ち会い、検査)

施工が始まった後は発注者として工事の状況や仕上がりを確認するために、工事への立ち会いや検査に対応していきます。
施工の状況や作業内容に関する専門知識が必要な部分もありますが、この点はコンサルタント会社や施工会社が支援します。また、居住者からの質問や意見、苦情の受付は施工会社が担当しますが、最終的に判断するのは理事や修繕委員です。そのためにも、委員が現場のいまの状況をしっかり理解していることが重要です。その様な目線と意識を持って、委員一人ひとりが主体的に関わっていきましょう。
検査を行うタイミングは、「下地補修完了時」「塗装完了時」といった工程ごとの途中と最後です。品質のチェックポイントなどは、コンサルタント会社からあらかじめ聞いておくとよいでしょう。また、少しでも疑問に思うことがあればこの時点で確認しておきましょう。

広報案内例
広報案内例
定例会・広報活動・工事中の諸調整・クレーム対応

工事期間中の定例会には、コンサルタント会社と施工会社が出席し、工事の進行スケジュール確認、事故・不具合・クレームなどのトラブルの発生・対処状況の共有がおもな議題になります。
今後の工事予定や、発生したトラブル、予見されるトラブルを把握し、必要事項をしっかりと広報していく必要があります。
できるだけ管理組合の理事長にも出席してもらい、居住者への広報方法を関係者全員で確認しましょう。
工事開始後のクレームで最も多いのは、在宅が必要な工事や、電気・ガス・水道の停止や騒音の発生を伴う工事の周知不徹底です。特にバルコニーやポーチなど、居住者が専用で使用している共用部に関する周知漏れは大きなクレームにつながるので注意が必要です。

追加工事の発注

「工事を開始してみたら新たな瑕疵(かし)を発見」、「工事開始後に出てきた居住者からの要望」といった理由で追加工事は発生しがちです。そのために予算の5〜10%は予備費として確保しておき、工事を中断させることなく対応できるようにしておきましょう。予備費を使用する際は、原則として理事会の承認が必要です。必要な際に連絡・相談が取れる体制をあらかじめ組んでおきましょう。万一、予備費を超える追加工事が必要となった場合は、超過分の費用について総会または臨時総会で承認を得なくてはなりません。

B 工事後のクレーム対応

一般的に工事が完了したら修繕委員会は解散します。しかし小さな汚れや塗り残しといった工事後のクレームはあり得るものです。その場合、理事会から施工会社へ伝えて対応してもらいます。ただし、委員がもっとも状況を把握している立場なので、実際には工事後の瑕疵への対応を含め協力をしていることが多くなっています。次回の大規模修繕をスムーズに行うためにも、解散せずに継続するのが理想的といえます。

C アフターサービス点検

施工会社との契約には、性能保証箇所の状態確認や法定点検も含まれていて、竣工後1年、3年、5年、10年といったタイミングで行います。特に1年目は、全戸にアンケート調査を行って、工事に瑕疵はなかったかを確認していく形になっており、これに伴って施工会社への対応や交渉、点検や修正工事の手配・立ち会い・確認などの作業が発生します。
この時点で修繕委員会が解散している場合は、理事会で対応することになります。

SUNシリーズ一覧

  • ISSUE 01 大規模修繕を知る
  • ISSUE 02 修繕委員のABC
  • ISSUE 03 パートナー選びの基礎知識
  • ISSUE 04 コンサル導入の手引き
  • ISSUE 05 修繕計画の予習帳
  • ISSUE 06 施工会社の選び方