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ISSUE 05 修繕計画の予習帳

chaptert 2

詳解!建物調査・診断

建物調査・診断の目的と意義

マンションの劣化や老朽化の度合いは建物によってさまざま。建物としての構造や築年数が同じであっても、立地や気候条件、使い方・管理の仕方によって違いが出てきます。例えば、日当たりがよい壁面では紫外線によって廊下の防水シートの劣化が早く進行したり、大きな道路に面した壁面では自動車が通行する際の振動でタイルの劣化が著しかったり。
したがって、構造や築年数で状況を一律に判断することはできず、建物ごとにしっかりと現状を見極めることが、安全性の面でも工事の費用効率の面でも必要となります。
この「見極め」の作業が、建物調査・診断です。
建物調査・診断を行うことによって、建物の詳細な状況を把握することができ、その結果として、いま修繕すべき箇所や工事の内容・範囲・工法などを具体的に特定することができます。

建物調査・診断のおもな内容

建物調査・診断の内容は、大きく分けてアンケート調査、目視調査、打診調査、触診調査、破壊試験、バルコニー立ち入り調査の6つに分類できます。それぞれ、詳細は下表の通りです。


アンケート調査

全戸にアンケートを配布し、居住者が気になっている劣化や破損の箇所を聞き取る調査です。外からはわからない室内の水漏れの有無、バルコニーの状況、過去の修繕履歴、その他の要望もあわせてここで確認します。


目視調査

建物の各所を目視で調査します。おもな調査箇所は屋上や廊下の防水層、各部のシーリング材、壁面の塗装やタイルなどで、剥がれ・浮き・ひび割れといった劣化の有無をチェック。また、外階段や駐輪場などの金属製構造物は、錆びの状況を確認します。


打診調査

打診棒という器具で壁面を叩き、その反響音で壁面内部の浮き・剥がれを確認する調査です。肉眼で確認できない、外壁のタイルやモルタル、コンクリートの内側の状況を診断でき、足場を組まずにある程度の高さまで調査が可能というメリットがあります。


触診調査

鉄部や壁面の塗装、タイルの目地、各部のシーリング材に手で触れ、状況を確認する調査です。塗装部分はチョーキングと呼ばれる粉体化現象、目地はひび割れ、シーリング材については膨張や軟化の有無をおもに確認していきます。


破壊試験

建物の壁面やタイル、塗装面、シーリングの一部を切り取って、専用の機器や試薬を使って建築材料や塗装膜の劣化を測定します。P10~11で代表的な試験をご紹介していますので、詳しくはそちらを参照ください。


バルコニー立ち入り調査

全戸から10%程度を抽出し、バルコニーに立ち入って壁面や床面、塗装、シーリング材、鉄部の劣化を確認していく調査です。調査の手法は目視・打診・触診ですが、居住者の在宅が必要なため、十分な事前調整が欠かせません。

[ 参考 ] おもな破壊試験

  1. 1コンクリートの中性化を数値化する調査:コンクリート中性化測定試験
    ● コンクリート中性化とは?

    躯体を構成する鉄筋は、外側を覆うコンクリートがアルカリ性であることによって内側の鉄筋を酸化(=錆びる)から守る性質を持っています。しかし、コンクリートの表面が空気中の二酸化炭素にさらされると少しずつ中性に近づいていき、鉄筋を酸化から守れなくなります。これが「コンクリートの中性化」です。放置すると最終的には下図のような問題が起こります。


    ● コンクリート中性化測定試験

    特殊なドリルでコンクリートの一部を円柱状にくり抜き、取り出したコンクリート片に試薬をかけます。試薬により、中性化している部分が変色するため、変色部の長さを測ることでコンクリートの中性化が表面からどの程度の深度まで進んでいるかを測定します。


  2. 2塗膜の劣化を数値化する調査:塗膜付着強度測定試験
    ● 塗膜劣化とは?

    塗装は建物の美観を整えるとともに、塗膜によって躯体をさまざまな劣化の原因から保護しています。塗膜が劣化すると、躯体を保護する機能が低下し、コンクリート中性化や鉄部の錆びなどに繋がります。

    ● 塗膜付着強度測定試験

    塗装面を専用の機材でゆっくりと引っ張り、どの程度の力をかけると塗膜が剥がれるかを測定します。塗膜や下地の浮きやひび割れといった劣化が進行している場合、基準よりも弱い力で塗装面が剥がれてしまうため、目視では発見しづらい塗膜劣化の傾向をつかむことができます。

    • 専用機材のアタッチメントを壁に接着し、周囲に切込みをいれる。
    • アタッチメントと専用機材を接続し塗膜が剥がれるまで引っ張る。
    • 剥がれたときにかけていた力を専用機器の計器で確認する。
  3. 3タイル外装の劣化を数値化する調査:タイル付着強度測定試験
    ● タイル外装劣化とは

    塗装と同じく、タイル外装も建物の美観維持、躯体を劣化から保護する役割を担っています。タイルの劣化は接着面からの浮きや剥がれという形であらわれます。

    ● タイル付着強度測定試験

    タイルを専用の機材でゆっくりと引っ張り、どの程度の力をかけるとタイルが剥がれるかを測定します。タイル外装に劣化が進行している場合、基準よりも弱い力でタイルが剥がれてしまうため、目視では発見しづらい劣化の状況をつかむことができます。

    • 専用機材のアタッチメントを壁に接着し、周囲に切込みをいれる。
    • アタッチメントと専用機材を接続しタイルが剥がれるまで引っ張る。
    • 剥がれたときにかけていた力を専用機器の計器で確認する。
  4. 4シーリング材の劣化を数値化する調査:シーリング材劣化診断
    ● シーリング材劣化とは

    シーリング材は、タイルとタイルの間、窓枠とコンクリートの間などの隙間(=目地)に充てんする柔軟性の材料です。熱や紫外線などにさらされることにより、しだいに弾力性を失い、ひび割れを起こします。また、シーリング材を触ると手につくほどの状態を「軟化」といいます。軟化してしまったシーリング材は、修繕工事の際、撤去に時間と手間がかかります。
    このように劣化した部分から漏水を引き起こしてしまうケースもあります。

    ● シーリング材劣化診断

    シーリング材の破壊試験は、建物から採取したサンプルを専用測定機にかけて、破断するまでゆっくりと引っ張り、破断時の伸び率を測定するものです。破断時の伸び率が少ないほどシーリング材の劣化(=柔軟性の低下)が進行していると判断できます。

    • 建物からシーリング材のサンプルを採取する。
    • サンプルを3mm厚にスライスし、ダンベル状に切り抜いて試験片を作成。
    • 試験片を専用測定機にセットして破断するまで引っ張り、破断時の伸びを測定する。

建物調査・診断を進めていく際のポイント

建物調査・診断の準備から劣化診断報告書の作成までの実務は、そのほとんどをコンサルタント会社が担当するため、修繕委員の仕事はコンサルタント会社からの報告やアドバイスをもとに、建物の状況を把握しながら、進行管理や内部調整を行うことになります。以下、各ステップ毎に対応上のポイントを解説します。

  • マンション現場調査、施工図、修繕履歴などの確認

    コンサルタント会社に設計図書を求められたとき、設計図などがどうしても見つからない場合は、コンサルタント会社に書き起こしてもらうのも一案です。基本的に別途料金となりますが、書き起こしとともにデータ化しておくと、次回以降の大規模修繕の際にも役立ちます。

  • 居住者アンケート

    アンケート内容はコンサルタント会社が作成しますが、修繕委員会でも「誰でも理解できる内容か」という観点からチェックしておきましょう。なお、アンケートの周知・配布・回収の作業については、コンサルタント会社で受け持つケースもあれば、 修繕委員会側で受け持つケースもありますが、なるべく多くの回答が集まるよう居住者に声をかけていくのは修繕委員の役割です。

  • 調査・診断の実施手配

    調査・診断に必要となる機材や人員の手配、当日の作業スケジュールの段取りは、全てコンサルタント会社側で行います。修繕委員会側で対応すべきことは特にありませんが、当日の作業スケジュールは把握しておきましょう。

  • 調査・診断の事前周知、広報

    調査・診断に関する説明資料や事前案内の作成・周知は、コンサルタント会社のアドバイスに沿って進めていきます。資料や案内は戸別配布が基本ですが、可能であれば掲示板やエレベーターの中、駐輪場といった居住者の目に触れやすい場所にも掲示するとよいでしょう。

  • 調査・診断当日対応

    当日はなるべく都合をつけて調査・診断の現場に立ち会わせてもらいましょう。現場に立ち会うことで、より具体的に建物の劣化状況を把握することができますし、後日、劣化診断報告書に目を通す際も内容を理解しやすくなります。

  • 劣化診断報告書の作成

    コンサルタント会社が建物調査・診断で行った各種検査・試験、現場写真などをとりまとめて分析し、劣化診断報告書を作成します。念のため、後の劣化診断報告書説明会に備えて簡易版の資料も作ってもらうよう、あらかじめ依頼しておくとよいでしょう。

  • 劣化診断報告・説明会 (理事会向け)

    劣化診断報告書の内容について、コンサルタント会社から説明してもらいます。この後に控える居住者への説明や修繕計画の策定に備えて、しっかりと内容を把握しておきましょう。

  • 劣化診断報告・説明会 (居住者説明会)

    理事会・修繕委員会から、居住者に劣化診断報告書の内容を説明します。詳細はChapter4をご参照ください。

COLUMNウチのコンサル、大丈夫?

慎重に選定を進め、「この人なら信頼できる、任せてみよう」と満場一致で決めたとしても、取り組みを一緒に進めていく中でコンサルタントに対する違和感や不信感が出てくることはあり得ます。
その理由が「時間や約束を守らない」といった基本的な部分である場合、まずは改善を依頼するところからですが、修繕計画の策定方針や説明の細やかさといった点の場合は、通常の打ち合わせとは別で時間を取って話し合ってみましょう。
例えば、コンサルタントから提示された修繕計画案に「自分たちの希望や意見が反映されていない」「費用が高すぎる」といった疑念や不満があるときは、なぜそのような案になったのか、他に選択肢はないのかを、しっかり確認するべきです。説明にわからない点があれば、理解できるまで繰り返し聞きましょう。
それでも疑念や不満が残るなら、この先パートナーシップを維持するのは困難かもしれません。思い切ってコンサルタント会社を切替えるという選択肢も視野に入れておくとよいでしょう。
契約内容にもよりますが、実際に切替えを行う場合、現コンサルタント会社への支払いはその時点で受領した成果物(劣化診断報告書や修繕計画書など)に対するものになるのが一般的であり、後継のコンサルタント会社とは重複しないため、費用面でのロスはさほど心配しなくても大丈夫です。
選定・情報共有・関係構築をやりなおす時間のロスはありますが、新築と違い、厳密な竣工日があるわけではありません。大きな費用を投じる居住者全員のための取り組みであることを考えれば、竣工時期を後ろ倒し、よりよい修繕を目指すのも長い目で見れば必要な場合があります。

SUNシリーズ一覧

  • ISSUE 01 大規模修繕を知る
  • ISSUE 02 修繕委員のABC
  • ISSUE 03 パートナー選びの基礎知識
  • ISSUE 04 コンサル導入の手引き
  • ISSUE 05 修繕計画の予習帳
  • ISSUE 06 施工会社の選び方